脂肪肝とは
脂肪肝は、肝臓に過剰な脂肪が蓄積する状態を指し、特に肝細胞内に脂肪滴が異常に多く見られる場合を言います。脂肪肝は、従来からアルコール性脂肪肝(ALD)と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)の2つにわけられています
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はここ最近、メタボリック症候群の基準の一部を満たす場合、MAFLDと呼ばれますが、ここではわかりやすいように従来通り、アルコールが原因の脂肪肝とアルコールが原因ではない脂肪肝にわけて説明をします。
目次
脂肪肝の原因
- アルコール性脂肪肝(ALD:alcohol-associated (alcohol-related) liver disease)
…アルコールが原因 - 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)
…アルコール以外の肥満や糖尿病、高脂血症などが関連している。
アルコール性脂肪肝とは
アルコール性脂肪肝は、過剰なアルコール摂取が原因で生じる肝臓の状態で、アルコール性肝障害(Alcoholic Liver Disease, ALD)の初期段階に位置づけられます。ALDは3つの段階に分類されることが多く、脂肪肝、アルコール性肝炎、そして肝硬変があげられます。ALDはこれらの中で最も軽度であり、しっかり節酒をして治療を見直せば治る見込みの高い疾患です。
症状
初期段階の脂肪肝は、しばしば無症状です。症状が現れるとしても非特異的で、疲労感や右上腹部の不快感などが一般的です。病気が進行すると、黄疸、腹水、出血傾向などのより深刻な肝硬変という病状に進展していきます。
アルコール性脂肪肝の病態生理
アルコールの過剰摂取は、肝臓での脂肪酸の合成を促進し、脂肪酸の酸化を阻害します。これにより、トリグリセライドが肝細胞内に蓄積します。さらに、アルコール代謝過程で生成されるアセトアルデヒドは、細胞障害を引き起こし、炎症、酸化ストレス、そして最終的には細胞死を促進します。これらの過程は、肝炎や肝硬変へと進行する可能性があります。
診断
AFLDの診断は主に患者の飲酒歴、身体検査の所見、および肝機能検査の結果に基づきます。超音波検査、CTスキャン、MRIなどの画像検査が肝臓の脂肪蓄積を可視化し、肝生検が最終的な確診を提供することがあります。
治療
最も重要な治療は完全なアルコール摂取の中止です。多くの場合、アルコールを断つことで肝臓の状態は改善し、脂肪の蓄積は減少します。その他の支援的な治療には、バランスの取れた栄養摂取、運動、肝臓を保護するサプリメント(例:ビタミンB群)が含まれます。重度の肝障害が発生している場合には、より積極的な治療が必要となることがあります。
非アルコール性脂肪性肝疾患とは
非アルコール性脂肪性肝疾患( NAFLD)は、肥満、2型糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧、高脂血症など、代謝異常と強く関連している肝疾患です。
端的にいうとアルコールが原因ではない脂肪肝を指しています。
NAFLDは、軽度の脂肪肝から始まり、非アルコール性脂肪肝炎(NASH:non-alcoholic steatohepatitis)、肝硬変、さらには肝がんへと進行する可能性があります。
痩せすぎでも脂肪肝になる?
手術後や極端なダイエットによる急激な体重減少は、肝臓への脂肪蓄積を促進し、脂肪肝を引き起こすことがあります。
極端なダイエットや手術後の回復期には、適切な栄養が摂取されない場合があります。特にタンパク質が不足すると、肝臓での脂肪酸の酸化やリポ蛋白の合成が妨げられ、肝臓への脂肪の蓄積を促進します。
脂肪肝の一部の人が肝硬変に至ります。
NAFLDは世界中で急速に増加しており、肥満や2型糖尿病がある人々に特に一般的です。推定では、成人の約25%がNAFLDを持っているとされています。
NAFLDの患者の中で、約20%から25%がNASH(非アルコール性脂肪肝炎)を発症すると推定されています。
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)とはなにか
NASHは「非アルコール性脂肪肝炎(Non-Alcoholic Steatohepatitis)」の略称で、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の一形態です。NASHは肝臓に脂肪が蓄積するだけでなく、炎症や肝細胞の損傷が進行し、肝硬変や肝がんへ進行するリスクが高まる重篤な状態を指します。
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の主な特徴
- 脂肪蓄積
肝臓に過剰な脂肪が蓄積しますが、これはアルコール消費とは無関係です。 - 炎症
脂肪の蓄積に伴い、肝臓内で炎症が発生し、肝細胞が損傷します。 - 肝細胞の損傷
炎症が進むと肝細胞が死に至り、この過程で線維化が進行することがあります。NASH(非アルコール性脂肪肝炎)を持つ患者では、約20%が10年から20年の間に肝硬変を発症すると推定されています。肝硬変は、肝臓が瘢痕組織で置き換わり、肝臓が元に戻らない状態です。
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)から肝がんへの進行することがあります
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)が肝硬変に進行した場合、肝がんのリスクがさらに高まります。肝硬変を持つ患者で肝細胞がんが発症する確率は、年間約1%から5%とされています。
脂肪肝(NAFLD)の診断基準(日本)
- アルコール摂取量男性で週に140g未満、女性で週に70g未満のアルコール摂取。
- 画像診断による肝脂肪の確認
超音波検査(US)、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)などの画像診断により、肝臓に脂肪の蓄積が確認される。 - 他の慢性肝疾患の除外
ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)、自己免疫性肝疾患、遺伝性肝疾患、薬剤性肝障害など、他の原因による肝疾患が除外される必要があります。 - 血液検査
肝機能検査(ALT、ASTなど)に異常が見られることがあるが、正常範囲内であってもNAFLDの可能性を排除できません。
脂肪肝(NAFLD)の治療
脂肪肝(NAFLD)の治療は、基礎となる代謝症候群の要因を管理し、ライフスタイルの変更を通じて肝臓の脂肪蓄積を減少させることを目的としています。
主な治療戦略には以下が含まれます:
- ライフスタイルの変更
健康的な食事と定期的な運動は、体重を減少させ、肝臓の健康を改善するのに有効です。 - 体重管理
肥満がある場合、体重を減少させることが肝臓の脂肪を減らし、脂肪肝(NAFLD)の改善につながります。 - 薬物療法
現在、脂肪肝(NAFLD)を治療するための薬はありませんが、2型糖尿病や高脂血症などが合併していれば - 定期的なモニタリング
肝機能のモニタリングと定期的な経過観察が重要です。
脂肪肝のよくある質問
脂肪肝は完治しますか?
脂肪肝、特に非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、多くの場合、体重を減らすことで改善することが多いです。多くの場合、肝臓に蓄積された脂肪は減少し、肝機能も正常化することができます。そのため、脂肪肝の「完治」は可能と考えられていますが、完治するにはライフスタイルの改善や維持が重要です。
腹部エコーで脂肪肝の疑いとわかるのは?
脂肪肝の疑いが腹部エコーでわかる主な理由は、脂肪の蓄積が肝臓のエコー(超音波)像に特有の変化を引き起こすためです。以下に、腹部エコーで見られる脂肪肝の特徴をいくつか挙げます。
1. 肝臓のエコー反射性の増加
脂肪肝では、肝臓の細胞に脂肪滴が蓄積します。これが原因で、肝臓からのエコー反射(超音波の反射)が増加し、エコー画像上で肝臓が通常よりも明るく(高エコー)表示されます。
2. 血管構造の不鮮明
脂肪の蓄積により、肝臓内の血管構造がエコー画像上で不鮮明になります。特に、脂肪蓄積が多い場合、血管の輪郭がぼやけて見えることがあります。
3. 肝臓の質感の均一性の低下
脂肪肝の肝臓は、脂肪の分布に応じてエコー反射の均一性が低下します。局所的に脂肪が蓄積している場合、エコー画像上で均一でない質感として現れます。
これらの変化をもとに、腹部エコー検査を行う医師は脂肪肝の有無や程度を評価します。ただし、腹部エコーだけでは脂肪肝の進行度(例えば、非アルコール性ステアトヘパチティス(NASH)の有無)を特定することは難しいため、血液検査や場合によっては肝生検が必要になることがあります。
脂肪肝を治療しないとどうなる?
脂肪肝を治療しないで放置すると、症状が進行し、肝臓に重大な健康問題を引き起こす可能性があります。脂肪肝は多くの場合、初期段階では無症状ですが、時間と共に以下のような合併症を発症するリスクが高まります。
1. 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の中でも、NASHはより重篤な状態で、肝臓の炎症と細胞損傷が特徴です。NASHは肝硬変や肝がんへと進行する可能性があります。
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の患者の中で、大体20-30%がNASHに進行するとされています。これは、NAFLDがある人の5人に1人から3人に1人程度がNASHになることを意味します。
2. 肝硬変
長期にわたる肝臓の炎症と細胞損傷は、肝臓の組織が硬くなり、正常な肝組織が線維組織に置き換わる肝硬変を引き起こす可能性があります。肝硬変は肝機能の低下を招き、腹水、出血傾向、肝性脳症などを引き起こすことがあります。
NASHの患者では、約20%が10年以内に肝硬変に進行する可能性があります。ただし、この数値は患者のライフスタイルや治療への反応によって大きく変動します。
3. 肝がん
肝硬変の進行は、肝細胞がん(肝がん)のリスクを高めます。肝がんは発見が遅れると治療が困難で、予後が悪いことが多いです。
肝硬変を持つ患者では、年間1-4%の割合で肝細胞がん(HCC)に進行するリスクがあります。肝硬変の程度や原因、患者の一般的な健康状態などによってリスクは異なります。
脂肪肝になるまで何年かかる?
脂肪肝の発症は基本的にはゆっくりと出現しますが、下記の状態であれば1~3か月程度の早い期間で起こることがあります。
1. 急激な体重増加
急速な体重増加や過剰なカロリー摂取は、短期間で脂肪肝を発症させる可能性があります。特に、食生活が高脂肪、高糖質の食品に偏っている場合、脂肪肝への進行が加速されることがあります。
2. アルコール消費
アルコールを過剰に摂取すると、アルコール性脂肪肝が発症するリスクが高まります。アルコール性脂肪肝は比較的短期間で発症し、重篤な肝障害に進行することがあります。
3. 急激な栄養変化
手術後の回復期や極端なダイエットによる急激な栄養状態の変化も、脂肪肝の急速な発症の原因になることがあります。
お問い合わせ
当院では、脂肪肝の診察や治療にも力を入れております。脂肪肝は初期段階では自覚症状を感じにくいため、気付かぬうちに進行してしまっているケースが多く見受けられます。その結果、肝硬変や肝がんなどの合併症を引き起こす可能性があります。定期的なチェックと早期に適切な治療を始めることが重要ですので、心当たりのある方はまずは検査を受けてみましょう。些細なことでもかまいませんので、なにか気になることがありましたらお気軽に当院へお越しください。
文責:東海内科・内視鏡クリニック岐阜各務原院 院長 神谷友康