当院ではクローン病をはじめとした炎症性腸疾患の診療をおこなっております。5-ASA製剤を基本として、免疫調整剤や抗TNFα抗体製剤などの生物製剤の治療にも対応しておりますのでご相談ください。
クローン病は小腸にも病変ができる疾患ですので、小腸内視鏡などの検査や入院での加療が必要な場合は基幹病院と連携して診療を行っていきます。
目次
このような症状はクローン病の可能性があります。
- 激しい腹痛
- 下腹部の違和感
- 1日に何度も下痢になる
- 下痢が長期間続く
- 口内炎を繰り返している
- 便に血液が混じる・血便
- 過去に消化管穿孔(穴が空く)を繰り返している
- 難治性の痔瘻がある
クローン病は小腸や大腸だけでなく、口から肛門まで消化管全体に原因不明の炎症や潰瘍ができる疾患で、特に小腸の末端に好発するとされています。 この病気はしっかりとした治療を行わないと、炎症を繰り返すことで腸管にダメージが徐々に蓄積していき、場合によっては小腸の大半を失ってしまうことがあります。小腸は栄養を吸収するためになくてはならない臓器ですので、短くなってしまうと栄養が吸収できなくなり、生涯点滴での栄養補給が必要となる可能性があります。
クローン病について
- 徐々に患者が増えてきています。
クローン病の患者数は年々増加しており、2014年の調査では約7万人の患者さんがいると推定されています。難病指定の病気で医療費補助が受けられます。
- クローン病の原因
潰瘍性大腸炎と同様に、TNF-αといわれる免疫に関係する体内物質の過剰状態、免疫系の過剰な状態が炎症の原因と考えられておりますが、まだ正確な全容は解明されていません。
- クローン病の症状
クローン病は口から肛門までの消化管のどこでも炎症が起こる可能性のある病気です。病変がどこにあるかなどにより、様々な症状を起こします。症状はよくなったり(寛解)、悪くなったり(再燃)を繰り返すことが多いです。
主な症状
- 腹痛
- 下痢
- 発熱
- 体重減少
- 切れ痔・痔ろう
- 肛門の潰瘍や膿
- 口内炎
腸へのダメージが蓄積します。
クローン病は炎症が腸管全層にわたって生じるため、繰り返しの炎症や潰瘍の結果、腸管が狭窄したり穿孔を起こしたりすることがあります。そのような場合は手術治療が必要となり、あまりにも腸管へのダメージが大きい場合は大部分の小腸を切除することもあります。そのような腸管ダメージを蓄積さけるために、必ず治療を続けていく必要があり、寛解という良い状態を可能な限り長く維持することが大切とされています。
腸以外にも症状がでることがあります。
腸管以外では、関節・眼・皮膚などに合併症を起こし、特に関節に生じることがよくあります。潰瘍性大腸炎と同様に肝胆道系障害、結節性紅斑などの合併症を起こすこともあります。
クローン病の分類
病変が生じる場所により小腸型、小腸・大腸型、大腸型に分けられます。症状や治療法がそれぞれ異なるため、大腸カメラによる正確な診断が不可欠です。
- クローン病の診断
症状が起こりはじめた時期や内容の変化などを問診で伺います。大腸カメラで特有の病変を確認し、採取した組織の病理検査を行い、確定診断します。病変の状態や範囲を正確に把握できる大腸カメラは、適切な治療にも不可欠です。当院では、心身への負担を大きく軽減する無痛の大腸カメラを実施しており、ご不安にも丁寧にお答えしていますので、安心してご相談ください。
治療法
クローン病の治療では生活習慣の改善、栄養療法と薬物療法が重要です。
日常生活での注意点
クローン病の患者様の活動期・再燃期には、食事制限が必要になりますが、それ以外は発症前とそれほど変わらない生活が可能です。ストレスや寝不足、暴飲暴食は症状が悪化するきっかけになりますので控えましょう。
- 食事
脂肪の多い食事はなるべくさけましょう。腸管の狭窄などがある方は食物繊維の摂りすぎに気を付けましょう。症状が悪化したときは、絶食や成分栄養剤で栄養を摂取することが望ましいです。
- 運動
適度な運動は必要ですが、過度な運動を避けましょう。適度な運動を習慣的に行うことは良好な状態を保つために有効とされています。
- アルコール
飲酒による影響はまだはっきりとはわかっていませんが、過度な飲酒を避け、適度な量の飲酒に問題はないと考えられています。
- 喫煙
喫煙はクローン病の症状の発症や悪化に関与することがわかっていますので、禁煙をしましょう。
栄養療法
クローン病の栄養療法は主に症状の悪化が見られたときに腸管の安静と食事からの刺激を取り除くために行います。成分栄養剤の使用や低脂肪、低残渣食などを用います。
薬物療法
クローン病の症状がある時期には炎症をできるだけ短期間に鎮める治療を行い、寛解期にはできるだけ長く良好な状態を保つための治療を行います。
治療は活動期・再燃期、寛解期によっていろいろな薬を使い分けていきます。
- 5-ASA(5-アミノサリチル酸)製剤
5-ASA(5-アミノサリチル酸)製剤は治療の基本となる薬剤で、副作用が少なく、活動期の炎症を抑えることや寛解期を維持することにも有用です。直腸に炎症が強い場合は肛門から注入する注腸製剤もあります。
- ステロイド製剤
主に活動期や再燃期に炎症を抑えるために使用します。寛解を維持する効果は無いとされていますので、炎症が改善したらなるべく速やかに薬剤を減らしていく必要があります。直腸に炎症が強い場合は肛門から注入する注腸製剤もあります。
炎症が強い場合はプレドニンなどの薬剤が使用されますが、炎症が軽い場合はブテソニドという薬剤を使用します。ステロイド製剤の中では副作用が比較的少なく、効果もしっかりあるため使いやすい薬剤です。
- 免疫調節薬
ステロイドの薬剤を減らすとすぐにまた悪化する方(ステロイド依存性)や、ステロイドを投与してもなかなか改善がない(ステロイド抵抗性)場合に使用します。NUDT15遺伝子型によっては副作用が強く出る場合があり、高度の白血球減少や脱毛などがでることがあります。
日本人ではNUDT15遺伝子型はArg/Arg、Arg/Hisが多く8割程度ですので、副作用が発現する確率は低いと考えられます。しかし1%程度の方でCys/Cys型の方は副作用が必発のため、服用ができません。初めて免疫調整剤を服用する方はNUDT15遺伝子型の検査を行うことが必要です。
- 生物学的製剤(抗TNF-α抗体製剤)
炎症を引きおこすサイトカインという物質を抑制することで、腸への炎症を抑える薬です。活動期や再燃期の炎症を抑えるときや、その後の維持療法にも有用な薬です。特にクローン病に対する抗TNF―α製剤の投与は腸管の予後を改善し、将来的な腸管ダメージ蓄積の予防することで、将来的な手術の予防につながるとされていることから、早期の段階で積極的に使用していく傾向にあります。
内服薬はなく、点滴製剤や皮下注射製剤を投与します。
- 生物学的製剤(抗IL-12/23p40)
同じように炎症を引き起こすサイトカインを抑制する製剤ですが、また別のサイトカインを阻害します。同じく内服薬はなく、点滴製剤と皮下注射製剤となります。
- 生物学的製剤(JAK阻害薬)
JAKとはヤヌスキナーゼの略です。細胞の表面にはサイトカインという物質がくっつく場所(受容体)があります。各受容体にはJAKというタンパク質が付着しており、JAKを介して炎症を起こす命令が細胞内に伝わっていきます。このJAKを阻害することでクローン病の炎症を抑える製剤です。
- 生物学的製剤(抗α4β7インテグリン抗体製剤)
白血球の一種であるTリンパ球の表面にあるα4β7インテグリンに対する抗体を集めた製剤です。Tリンパ球は炎症反応を起こす際に重要な白血球で、α4β7インテグリンはTリンパ中が消化管の細胞にくっつくのに必要なタンパク質で、その作用を阻害する製剤です。
- 栄養療法
クローン病で炎症が生じている際には、食品からの刺激に強く反応して悪化することがあります。また、炎症範囲によっては食事による栄養の吸収が十分にできなくなってしまうケースもあります。そうした際には、消化管の安静を保ち、必要な栄養をとるために、成分栄養剤を投与する栄養療法が行われます。
完全静脈栄養法
点滴で投与する高濃度の栄養輸液による栄養療法です。クローン病の炎症が強い急性期や、腸管の狭窄などがあるなどの場合に行います。腸管を安静にするために絶食とし、その間の栄養方法として点滴を行います。原則入院での治療となります。
クローン病の妊娠・出産の時はどうすればよいか
クローン病の寛解期を維持して炎症を起こさないよう、治療を継続しながらの妊娠・出産は可能です。妊娠・出産の期間には、胎児への影響を最小限に抑えたクローン病治療をしながら寛解期を確実に維持していく必要があります。また、胎児の分の栄養をしっかり補給することも重要になりますので、しっかりコントロールすることが重要です。
なお、妊娠したからと自己判断で服薬を中止してしまうと再燃して悪化し、母体にも胎児にも負担が大きい治療が必要になってしまいます。できれば妊活をはじめる前に主治医と相談して妊娠中の治療計画を立てておくようお勧めしています。また、突然、妊娠がわかった場合も速やかに主治医に相談して治療を見直すことが重要です。
文責:東海内科・内視鏡クリニック岐阜各務原院 院長 神谷友康