みなさんこんにちは。東海内科・内視鏡クリニック婦人科の仙波です。本日で開院3ヶ月となりました。本当に少しずつですが地域に貢献できるような医療ができている感触があり、やりがいと責任感で身が引き締まる思いでいっぱいの今日この頃です。
さて、私は、先日生まれて初めて岐阜城に行ってきました。天気がよく、展望台は岐阜・愛知県の広大な平野を地平線まで見渡すことができ、それはもうびっくりするぐらいの絶景で。下の写真は岐阜城天守閣から東側の写真で、矢印の先にある山の麓にあるクリニックが東海内科です(多分)。
雄大な景色の中に、自分のたちの住む世界をみて、普段の苦労や不安なんてちっぽけなことなんだと思いました。そして、ちっぽけな存在ながら地域の方のために尽力しますと空に誓った、ある日の午後でした。
さて、今回は私たちを脅かす、これまたちっぽけな微生物のお話をしたいと思います。
<淋菌・クラミジア>
淋菌・クラミジアは日本で最も頻度が高い性感染症です。淋菌は1.0μm(1000分の1mm)、クラミジアは0.3~0.4μm程度であり、淋菌よりもさらに小さい病原体です。
淋菌やクラミジアは性交渉を介してヒトからヒトへ感染を広げるいわゆる性感染症 (sexually transmitted disease: STD) の代表です。
男性であれば、尿道炎や精巣炎、女性であれば、子宮頚管炎を起こしますが、近年は性交渉の多様化により肛門や咽頭(喉の奥)に感染を起こす頻度も高くなっていると言われています。
また、女性の場合は「上行性感染」といって膣→子宮頸管→子宮→卵管→腹腔内(お腹の中)と病原体が広がっていく特徴があり、子宮頸管にとどまらず、卵管や腹腔内まで感染が広がった場合は骨盤腹膜炎を起こし、抗生剤点滴の連日投与や入院などが必要になる場合もあります。
また、感染・炎症を起こした臓器周辺には癒着を形成する傾向があります。精子と卵子の受精の場である卵管やその周辺に癒着を起こすことで時には命に関わる異所性妊娠(子宮外妊娠)を起こしたり、不妊症の原因になったりと、将来的に深刻な問題に発展することが知られています。
また淋菌が子宮頸管に持続感染することでHIV感染のリスクを上昇させること1)や、クラミジアに関してはHPVと同時感染することで子宮頸がんへの発症のリスクとなる可能性も言われています(後者に関しては賛否両論です2))。
<症状と気をつけるエピソード>
クラミジアや淋菌の症状はよく似ていて、子宮頸管炎を起こした場合、「おりものが多い」「おりものに出血が混じる」などのおりもの異常が出現する場合があります。また、オーラルセックスによって咽頭に感染した場合はのどの痛みが出ることがあります。
しかし、実際は淋菌やクラミジアに感染したとしても大多数の場合(7−8割)は症状がない、もしくは気づかないほど軽微です。このこととから、症状がなかったとしても、安心できるわけではなく、「コンドームなしでセックスした」「新しいパートナーとセックスした」など性感染症にかかる行為が思い当たるエピソードがある場合(思い出せない場合も含む)には疑って医療機関や保健所等に受診して適切な検査を受けることは重要です。
信頼できるパートナーであったとしても、パートナー本人も(症状が乏しいため)性感染症をもっていることを気づいていないことも多いのですから。
<検査>
淋菌、クラミジアの女性患者への検査は、尿検査ではなく、頸管粘液採取が推奨されています3)。一方、男性は尿からの検体採取で検査しています。
また、当日すぐに結果を知りたい方には迅速キット(ラピッドエスピー®︎)もあります。感度はPCR法に比較してやや劣りますが、10〜15分程度で結果が出るのでお急ぎの方や1回で受診を済ませたい方には最適です。
咽頭への感染が疑われる場合は、ぬぐい液(綿棒で粘液を採取)もしくはうがい液の2種類の方法がありますが、当院では患者さんに負担の少ないうがい薬を推奨しています。
<治療>
現在、淋菌・クラミジアの治療は感染早期で発見した場合や軽症の場合は、抗生剤の単回治療で完治する場合が多いです。
しかし近年、淋菌においては耐性菌の出現が問題視されており、治療が年々困難になっているのが現状です。
特に米国では、年間100万もの人が淋菌に感染し、その約半数が多剤耐性菌(多くの抗生物質に対して効果が見込めない菌のタイプ)と言われています。この事態を受け、疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)は、2019年に多剤耐性淋菌をUrgent threat(切迫した脅威)という位置付けにし、感染予防および積極的な検査、効果のある新薬の開発を急いでいる状況です4)。さらに、この状況を受けて世界保健機関(World Health Organization: WHO) は2022年に提言した世界保健セクター戦略(Global Health Sector Strategy)において、2020年の時点で全世界で8230万いる新規淋菌感染者を2030年までに823万人まで減らすという目標を掲げています5)。
我が国においても淋菌に対して効果の高いセフトリアソンの耐性菌の出現も同定されており6)、今後は点滴1回で簡単に治療可能な疾患ではなくなると考えられます。(現在、治療薬の開発が望まれていますが研究段階です。)
<予防>
性感染症に関する科学的な知識は増えているにも関わらず、日本だけではなく世界規模で性感染症が年々感染率が上昇し、問題となっている状況です。
性感染症の蔓延を阻止し、その規模を縮小するためにはこれまで述べてきた「検査」、「治療」および感染を未然に防ぐ「予防」の三本柱が重要といわれています。
では、「予防」とは何ができるでしょうか。コロナウイルスはワクチンの予防効果が高いといわれていますが、性感染症に対しては(ヒトパピローマウイルス以外)そのほとんどが未だ研究段階です。
でも、もっと身近で予防効果の高いものがあります。そう、コンドーム!適切に使用すると、コンドームは性感染症の予防効果が高い方法です。セックスのたびにコンドームを必ずつけるようにすることは、性感染症から自身やパートナーを守るsafer sex(安全なセックス)として推奨されています7)。
また、新しいパートナーができた場合や複数のパートナーがいる場合は定期的に検査(1年に1回以上)を受けることは重要ですし、それ以上に不特定多数の人とパートナーにならないこと、お互いにとってそれぞれが唯一のセックスパートナーであることなどを遵守することで性感染症は予防可能です。
<正しい性の知識を知るために>
性感染症を予防するために必要な正しい情報、セックスに対する個々人の規範意識は、正しい性教育を受けることによって全員が身につけることができ、性感染症の脅威から自分の身を守ることに繋がります。
性教育は、本来ならば学童期から思春期にかけて段階的に学んでいくことが理想的と考えられていますが8)、我が国では「はどめ規定」によってセックス自体を詳しく教えることが避けられてきました。性に関して正しい知識を教えようとした教師が、教育委員会から「学習指導要領に適さない」などと、大きな批判を受けるに至ったケースもあるようです。
このような状況から日本の性教育は、他の先進国に対して大きく遅れをとっているといえます。性の正しい知識を身につけることや教えることは、自分のため、身近にいる大切な人のため、子どもたちのため、我々全員に課された課題ではないでしょうか。
<まとめ>
ミクロな話をしていたのにも関わらず、世界規模の話題や性教育など、少し話が大きくなってしまいました。
最後に一言。性感染症にかかることは全く恥ずかしいことではないです。相談したいことや不安に思うことがあれば、医療機関を受診してもらえれば嬉しいです。なぜなら、私たちは性感染症の検査・治療を行う存在であると同時に、科学的根拠に基づいた性感染症を予防するために必要な知識を与える存在でもあるからです。これからもみなさんの力、地域の力になれるように頑張っていきたいと思います。
次回のテーマは「包括的性教育」にしようと考えています。では、またお会いしましょう。
文責 : 東海内科・内視鏡クリニック 岐阜各務原院
婦人科 仙波 恵樹
東海内科・内視鏡クリニックでは地域の皆様によりそった婦人科診療を提供しています。
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- 婦人科健診を行っています
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- 性病検査を行っています。
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- 月に一度、日曜診療を行っています。。
平日は忙しくてなかなか受診ができない方は日曜日の外来を行っておりますので、ぜひご利用ください。
参考文献
1) Guvenc F et al. Front Microbiol. 2020 Jun 3:11:1299. Intimate Relations: Molecular and Immunologic Interactions Between Neisseria gonorrhoeae and HIV-1
2) Francini APA et al, Cureus. 2022 Jan; 14(1): e21331. The Role of Chlamydia Trachomatis in the Pathogenesis of Cervical Cancer
3) Aaron KJ et al. Ann Fam Med. 2023 Mar-Apr;21(2):172-179.
Vaginal Swab vs Urine for Detection of Chlamydia trachomatis, Neisseria gonorrhoeae, and Trichomonas vaginalis: A Meta-Analysis
4) CDC HP : https://www.cdc.gov/drugresistance/biggest-threats.html
6) 小林ら 小児感染免疫 2015: 27: 23-28
7) CDC HP https://www.cdc.gov/std/chlamydia/stdfact-chlamydia-detailed.htm
8) Unesco HP : https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167
International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach (jpn)